人事労務に関わる皆様、【休職と休業って何が違うんですか】と聞かれたときに説明できますか?
労務管理の中ではよく目にする言葉ですが、意外とその意味や違いについてはあまり意識されずに漫然と使われている印象があります(驚くことに、超がつくような大企業でも散見されます)。そこで、今回は「欠勤」「休暇」「休業」「休職」の違いについて考察しながら、実務上の留意点について考えていきたいと思います。
【欠勤】
広義では、「労働者が労務の提供をしない場合」であって、多くは法令や使用者の承認などにより正当化されていないものを「欠勤」と呼びます。
労働義務自体はあるにもかかわらず、労務提供がなされないという点、別の言い方をすれば、使用者による労務提供義務の免除行為がないにもかかわらず、専ら労働者の意思のみによって労務提供がなされないという状態である点ため、原則として賃金が支給されず、また懲戒処分の対象とされることもあります。
もっとも、「病気欠勤」や「傷病欠勤」などと称し、医師の診断書などにより傷病のために労務を提供できないことが裏付けられたときは、一定期間の労務の不提供を正当化する制度を持っており、その期間が満了してもなお、労務提供ができない場合に休職を発令するという段階を踏むこととしている例も少なくありません。この場合の欠勤は、前記の通り不提供について使用者も正当性を認めているため、懲戒処分の対象とはならず、期間満了時に就労可能な状態に復帰していなくとも退職ないし解雇扱いとならない点が異なります。
【休職】
休職とは、労働者について、労務に従事させることが不能又は不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除又は禁止することをいいます。休職に関する定めをする場合は労働契約の締結に際し、労働者に「休職に関する事項」を明示しなければならないとされています(労基法15条1項、同法施行規則5条1項11号)。
休職には、目的や内容を異にするさまざまな種類がありますが、業務外の傷病を理由とする(私)傷病休職(病気休職)、傷病以外の私的な事故を理由とする事故欠勤休職、刑事事件に関し起訴された労働者に対して行われる起訴休職、労働者の他者への出向期間中になされる出向休職、労働組合の役員に専従する場合の組合専従休職、公職就任や海外留学などの期間中になされる休職等が一般的です。
なお、懲戒休職(出勤停止、自宅謹慎)と呼ばれるものがありますが、これは服務規律違反に対する制裁として行われるもので、実質的には懲戒処分の一種と考えられています。
【休暇】
労働関係の法令中には、年次有給休暇(労基法39条)、生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(同法68条)、子の看護休暇(育児・介護休業法16条の2以下)、介護休暇(同法16条の5以下)のように、「休暇」という用語があります。
休暇も、もともとは労働義務があった日についてそれが免除されたという点においては、休職と変わりありません。ただ、上に掲げたような休暇は、関係法令の規定に定められる要件を満たす限り、労働者に当然に権利が生ずるものであるのに対し、休職は法令ではなく就業規則や労働協約に基づき、使用者の発令により開始するものである点が異なります。
しかし、実務では、「夏季休暇」や「病気休暇」などの例を想起すれば明らかなように、法令の定めに基づくものではない「休暇」制度が設けられている場合も多く、期間満了時に職務に復帰できない場合に直ちに退職ないし解雇になるかどうかという点で、休職と区別されます。
【休業】
労働関係の法令中には、産前産後休業(労基法65条)、育児休業(育児・介護休業法5条以下)、介護休業(同法11条以下)、休業手当の支給対象である使用者の責めに帰すべき事由による休業(労基法26条)のように、「休業」という用語もあります。
休業も、労働義務がある日についてそれを免除する効果を有する点においては休職と同一の性格を持ちますが、関係法令の要件を満たしたときに労働者に「請求権」を生じさせる点において、休職とは異なっています(ただし、いわゆる産後「休業」については、労働者の請求を待つまでもなく、「就業させてはならない」という使用者の義務として規定されています(労基法65条2項))。
ちなみに、一般的には比較的短期のものが「休暇」、長期にわたることも想定されるものが「休業」と理解されているようですが、かかる区別が法令中に明記されているわけではないようです。
以上が原則的な違いということになりますが、以上述べてきたそれぞれの用語について、各企業が独自の使用方法をとっていることもあり、各用語の意味するものが一様ではないという点が事情を複雑にしています(それ自体は、必ずしも「悪い」ということではありませんが)。
例えば、就業規則において「育児休職」という用語が使用されている場合であっても、その内容をみると、育児・介護休業法に規定される育児休業のことであって、使用者の発令を待つまでもなく、労働者に請求権があるものであるとか、「病気休暇」あるいは「積立休暇」という用語が使用されている場合であっても、時効消滅した年次有給休暇を企業が特別に一定の条件の下で使用することを認める制度のことであって、法令に根拠があるわけではないといったケースがみられます。
こうして見ると、用語から一義的に法的性質を導くのは困難であり、会社側としては①期間の定め方、②権利行使の要否、③法令に定めによるものか会社独自の制度か、④有給か無給か、⑤不利益取扱いの有無(あるとすればどういった場面か)といった点を意識し、労働者に誤解や混乱が生じない(引いては紛争の元にならない)ように定める必要があります。このような視点で貴社の就業規則や賃金規程を見直していただき、用語の不統一や混乱などが見られる場合には、お気軽にご相談ください。